会長挨拶

会長就任にあたってのご挨拶

沼野夏生


このたび,日本雪工学会会長の職責を拝命致しました,東北工業大学の沼野です。
思いがけないことではありましたが,私を選んで下さった理事各位はじめ会員のみなさまの
ご期待に少しでもお応えできるよう,また本学会の社会的使命を全うできるよう努力して参り
ますので,どうぞよろしくお願い致します。


 さて,現在の日本雪工学会が置かれた状況は,残念なことに順風満帆というわけにはいきま
せん。日本雪工学会誌1月号の創立30周年特集号のなかで高橋総務委員長(現副会長)がいみ
じくも「逆風と再生」と書かれたように,さまざまな障害が立ちはだかってきた中でなんとか
次のステップへの可能性が見えてきた状態ではないかと思います。

 会員数の推移をみますと,ピーク時に対して個人会員は半数以下,団体会員は4分の1を割り
込んでいるのが現状です。この10年間,業務委託先の学会事務センターの破綻,建設不況,行
財政の見直しや合理化などの逆風が吹き荒れ,それに対して何とか知恵を絞って耐えてきた結
果です。ここ2年ほどは,ひとまず下げ止まりの傾向も見えてきました。
 今後どのように学会活動を「再生」していくかを考えるために,いささか不穏当かもしれま
せんが,私は現状をあえて過疎地域の再生という課題になぞらえてみたいと思います。


 現在は,大幅な人口減少は経験したが,その勢いは一応下げ止まり,村の財政は縮小するも健
全化が図られて,一応の小康状態といえるかもしれません。

 しかし,人口減少は数の問題だけではなく,深刻な高齢化を伴っています。人口の再生産がで
きない状態では,社会減はなくなっても自然減が止まらず,やがてさらなる過疎化に向かうこと
になります。
「住み続けられる」だけでなく,「住み継げる」地域にしなければ過疎は解決しません。
それにはどうすればよいでしょうか。

 私は,次の4つが不可欠と思います。

第1に,若いマンパワーの受け入れをはかることです。いわばIターン,Uターンの推進です。
第2に,そうした人たちが地域の魅力や移住の必要を感じられるようにするための地域資源の発掘です。
第3に,こうした地域資源が社会全体にとっても有用で欠かせないものであることを広く発信することです。
そして第4に,老若の村人たちの自由な参画によって地域が営まれていくことです。


 ここ数年続く多雪傾向の前には暖冬少雪が常態化し,冗談半分に雪の研究は-特に災害対策としては-
もはや要らなくなるのではないか,といった話も出ることがありました。
しかし近年,異常気象が異常といえなくなるなかで,多雪地域の雪害の深刻化はもとより,記憶に新しい
関東甲信大雪災害のような「想定外の」雪氷災害も発生し,新たな検討を要する雪対策の必要性が高まっ
ています。

とある新聞に,日本海側の津波が冬期に起きた場合,雪による避難の困難化を考慮して避難計画を立てる
べきだという記事がありましたが,積雪時の自然災害や原発事故の避難の問題など,わが雪工村の地域資源は
ますます豊かになるとともに,社会に必要とされ,活用されるべきものになっています。

 それでも,こうした地域資源の有用性については外部にまだまだ知られていません。
内閣府が数年前にやっと雪害を「発見」してくれましたが,災害対策に関する昨今のかまびすしい論議の中で,
雪のことは片隅に置かれている観があります。


 つい最近も,そんな思いを強くする出来事がありました。関東甲信大雪の際に孤立集落の問題を調べたところ,
政府の検討会による孤立集落対策には雪という要因が全く顧慮されていないことがわかりました。
もともと孤立集落は雪の問題だったのに,です。

 雪工村として,彼我の地域資源の独自性を失うことなく,隣の雪氷町(日本雪氷学会)とのタイアップも図り
ながらもっと効果的に外部に向けて発信する必要があります。
同時にそれをIターン・Uターン者の獲得にもつなげていかねばなりません。


 最後に,雪工学に関心を持つ方々すべてに呼びかけたいと思います。
雪工学には未知のフロンティアがまだまだたくさんあります。日本雪工学会はこぢんまりとアットホームである
にもかかわらず,多彩な分野の会員が刺激し合い,高めあっています。
これからの雪工学の発展のために,そして雪工学の発展を通して安全・安心な地域社会や国土を実現していくために,
是非みなさんの力をお貸し下さい。

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